今回は、PPAの無形資産価値評価にて用いられる超過収益法について書いていきたいと思います。
超過収益法はインカムアプローチの一つで、無形資産の評価実務で最も多く用いられる評価手法です。以下の記事でも触れましたが、超過収益法を使用したバリュエーションモデルの作成難易度はとても高いものです。
そんな超過収益法の実務上の論点やポイントを以下に列挙し、それぞれ簡単に解説していきます。では早速見ていきましょう!
超過収益法の論点/ポイント10選
フローの見立て
超過収益法に限らず、PPAで用いる事業計画のフローは、必ずしも取得価額検討の際に用いられたものと同一とは限りません。無形資産価値評価は「公正価値評価」であり、「市場参加者目線」での評価が求められます。したがって、特定の買い手のみが享受できるような「固有のシナジー」はフローから取り除いて評価をする必要があります。
また、将来期間に係る売上の増減が既存の無形資産の貢献に帰属するものなのか、将来見込んでいる新規のプロジェクトによるものなのかという整理も必要となります。
減衰率の設定
評価基準日時点の無形資産の価値が、将来に渡ってその価値を毀損することなく永続することはあり得ませんので、それを減衰という形で織り込む必要が出てきます。減衰率には、固定資産の減価償却と同様「定額法」と「定率法」があり、例えば顧客関連資産であれば「売上高」や「顧客数」を根拠として減衰率を設定します。この減衰率の考え方は評価へのインパクトが大きいため、慎重に検討する必要があり、監査手続きにおいても議論を生みやすい部分です。
価値対象フロー以外に帰属する販管費のアドバック
顧客関連資産を例に取ると分かりやすいのですが、無形資産の価値評価対象となるのは、評価基準日時点に存在する既存顧客です。したがって、新規顧客により実現されるフローは無形資産価値の評価対象外です。通常キャッシュフロー計算の起点となる営業利益は、トップライン(売上高)に営業利益率を乗じて算出されますが、ここには新規顧客獲得に係るマーケティング費用等が含まれています。つまり、新規顧客による収益獲得が事業計画上見込まれている場合に、そこで使用されている営業利益率を既存顧客のみのフローに乗じると、トップラインと営業利益がApple-to-Appleにならない(新規顧客獲得費用分余計に引かれている)のです。なので新規顧客獲得費用分は足し戻す処理をしてあげる必要があります。
期待収益率の設定
これは超過収益法に限った論点ではありませんが、次項目で触れるキャピタルチャージを考慮する必要のある超過収益法においては特に重要なポイントとなります。運転資本項目、固定資産負債、人的資産、評価対象無形資産、のれんの順にリスクが高くなりますので、設定する期待収益率もこの順に高くなるように設定していきます。
キャピタルチャージの考え方
期待収益率と関連があるキャピタルチャージですが、期待収益率の設定のみに気を取られていてはいけません。将来期間のキャピタルチャージの考え方は、基本的にはフローの見立てと整合する形で検討しなければならず、何も考えずに作成したスタッフのモデルはこの辺りが整理できていないことが多いです。
フロー最終期間の検討
これは減衰率の設定において定率法を選択する際に生じる問題ですが、減衰率が低いとトップラインがほとんど落ちないので、割とどこまでも期間を引っ張ることができます。実務上は、ディスカウンテッドキャッシュフロー(DCF)法において用いられる永久成長率法(減衰なのでマイナス成長)で継続期間を算出するパターンと割引現在価値がゼロ表示(ほぼゼロ)となる年度まで引っ張るパターンがあります。私は後者採用のケースで、100年以上フローが引っ張られているものを見たことがあります。
耐用年数
減衰率を定額で見込む場合は、どこかの時点で必ずゼロとなるため、その年度までの期間が耐用年数になります。定率法採用の場合は監査上想定されている耐用年数と整合しているかが見えないので、目安となる耐用年数の提示をクライアントや監査人より求められる場合があります。その際に実務上用いられる考え方として、超過収益の累積現在価値の合計が、超過収益の現在価値合計の80~95%に達する時点までの期間を耐用年数とするケースが多いように思います。
期央主義と期末主義
価値に大きなインパクトがあるわけではないのですが、PPAは「公正価値評価」なので事業実態に合った割引現在価値の考え方を採用する必要があります。また、減衰率の考え方とも整合させる必要があるため、地味に注意が必要です。
償却による節税効果(TAB)の取り扱い
インカムアプローチにおいては、無形資産収益の割引現在価値合計に対してTABを考慮するのが一般的です。償却による「節税効果」なので、価値を引き上げる方向の調整になります。償却期間は国や無形資産によって異なるため、案件に応じて都度確認する必要があります。
人的資産におけるTABの取り扱い
人的資産のTABの取り扱いについては、考慮する場合と考慮しない場合があります。個人的には実績を積み上げて価値を算出するコストアプローチにTABを採用するのは違和感があるため、特に案件のマネジャーにこだわりが無ければ考慮しない形で通しますが、考慮する派の人もいるので実務者は両方に対応できるようにしておく必要があります。
まとめ
いかがだったでしょうか?考慮事項が多くてPPAを実務でやるのは避けたいと思われた方も中にはいらっしゃるかもしれませんね。ただ、検討事項が多い分モデリングの基礎やビジネスの性質を財務モデルに落とし込んでいく力は相当鍛えられます。超過収益法モデルのコンセプトについて学習したい方は以下の記事もご参照ください。
PPA自体は他に汎用性の乏しい業務ですが、FAS内でもこれを極めているプレイヤーは意外と少なかったりします。つまり、会計基準が大幅に改定されない限り、PPAを極めれば飯を食うのに困ることはほぼゼロです。関心のある方はFASのバリュエーション部門の扉を叩いてみてください!
以上です!
コメント