PPA:採用アプローチとクロスキャピタルチャージ

FAS実務

今回は、PPAの無形資産価値評価における評価アプローチ採用の際の基本的な考え方について触れてみたいと思います。評価アプローチを決める際、適当に決めてしまうとクロスキャピタルチャージの問題等が発生し、モデルや評価上の整理が複雑化します。この辺りを深く考えていない評価人も意外と多いと認識していますので、当記事で整理してみたいと思います。

評価アプローチについては以下の記事で解説しています。そもそも無形資産価値評価においてどんなアプローチがあるんだろう?という方はそちらを先にお読みください。

無形資産評価アプローチとクロスチャージ

無形資産価値評価アプローチの採用ルール

無形資産を評価する場合、まず「識別」と言ってどんな無形資産を認識して評価するかというのを整理します。識別対象として挙がりやすいものとして、ブランドや顧客関係、技術等があります。これらの無形資産の評価には親和性の高い評価手法があり、例えばブランドや技術であればロイヤリティ免除法、顧客関係であれば超過収益法が無形資産の性質上採用しやすい評価手法であると認識しています。このような無形資産の性質から評価手法を選定する業者がありますが、基本的にそれを理由として評価アプローチを採用するのは不適切です。

インカムアプローチのうち最も複雑な評価プロセスを伴うのは「多期間超過収益法」であり、これに対して「ロイヤリティ免除法」や「利益差分法」は簡便法という位置づけです。そうした背景もあり、最もその評価金額が大きくなると思われる無形資産、つまり、取得の目的となった無形資産については「多期間超過収益法」により評価するものとされています。たとえメインアセットがブランドであっても、基本的には超過収益法で評価され、敢えてロイヤリティ免除法等他の手法を採用する場合には、相応の説明が必要となります。私が知る限りですが、これまでメインアセットに超過収益法以外の評価手法を採用してすんなり監査が通ったケースは見たことがありません。

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超過収益法におけるクロスキャピタルチャージ

メインアセットに対して超過収益法を適用するということはご理解いただけたと思います。では、メインアセット以外にも超過収益法を採用するケースはどうでしょうか?

この際にクロスキャピタルチャージ問題が発生します。例えば、ブランドと顧客資産を識別評価する際、双方に超過収益法を採用するケースを考えてみましょう。超過収益法は、全体の利益から資産に帰属する利益をキャピタルチャージとして控除することで価値を算出する評価手法であり、無形資産に帰属する利益についても差し引く必要が出てきます。つまり、2つの無形資産を超過収益法で評価する場合、ブランドの評価においては顧客資産のチャージを、顧客資産の評価においてはブランドのチャージを考慮する必要が出てきます。実際モデルを作成すると分かるのですが、循環計算のような形となり、反復計算をしていく必要が出てきてただでさえ複雑な無形資産価値評価モデルがより複雑化していきます。

クロスキャピタルチャージの回避方法

クロスキャピタルチャージを避ける方法としては次の3つが考えられます。

  • メインアセット以外に超過収益法を採用しない
  • 資産の貢献度等を考慮して片方にのみチャージするよう整理する
  • 評価対象フローを無形資産ごとに分離する
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方法1:メインアセット以外に超過収益法を採用しない

最も簡単なのは、超過収益法はメインアセットのみへの適用とし、その他無形資産については他の評価手法を用いることです。メインアセットとなる無形資産に対し、超過収益法以外の評価手法で評価した無形資産が貢献していると考えられる場合には、当該無形資産の帰属利益部分をキャピタルチャージとして考慮する必要があります。

方法2:資産の貢献度等を考慮して片方にのみチャージするよう整理する

次に超過収益法を2種類以上の無形資産に適用するが、クロスキャピタルチャージをしない方法です。上記のケースと基本的な考え方は同じで、メインとなる無形資産を特定し、その無形資産に対して他の超過収益法で評価した無形資産の貢献利益分をキャピタルチャージとして考慮するというものです。例えば、顧客資産と技術が識別対象無形資産でどちらに対しても超過収益法を適用する場合を考えます。技術があるから顧客が得られるということであれば、技術の評価においては顧客のキャピタルチャージを考慮せず、顧客資産の評価時に技術資産のキャピタルチャージを考慮します。

方法3:評価対象フローを無形資産ごとに分離する

最後は評価対象フローを無形資産ごとに分離する方法です。これは、無形資産ごとに綺麗にフローが分離できる場合、つまり特定の無形資産が他の無形資産に帰属する利益に貢献しない場合に使用が限られます。一番分かりやすいのは受注残と顧客資産を識別評価するケースです。受注残を顧客資産の中に含めて評価するという整理もありますが、基準上可能な限り細かく無形資産を識別評価するものとされており、評価基準日時点における受注残の金額は大抵把握可能なので、基本的には顧客資産と分離して評価します。

最後のケースにおける留意点として、顧客資産の減衰考慮前のフローから受注残のフローを除くことです。減衰率考慮後のフローから受注残のフローが除かれているケースを何度か見たことがありますが、明らかに誤りなので注意したいところです。

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まとめ

採用アプローチに関して、無形資産の性質に合わせて採用しやすい評価手法を採用するのではなく、メインアセットが何なのか?という観点で考えるべきであるという点はご理解いただけたかと思います。また、超過収益法を複数無形資産に適用する場合に生じるクロスキャピタルチャージ問題についても理解いただけたのではないでしょうか。

超過収益法は論点が多いため、整理しながら無形資産の評価を進めるのは非常に大変ですし、時間もかかります。なので評価プロセスの手戻りを減らす意味でも、入り口のところでしっかり採用アプローチを検討したいところです。深く検討されていないケースも時々見られますが、ここは適当に整理せずにじっくり検討されることをオススメします。

みやび
みやび

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以上です!

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