当記事は、ふと思い立って記録を取り始めた、某BIG4 M&Aファーム(FAS)における退職者の統計データを公開・分析するものです。サンプル数は非公開としますが、統計データと言える程度のサンプル数は集まりました。当該統計データは、私がリーチできた情報(私自身が社内で収集した情報)に基づくものであり、網羅性を担保するものではないためその点ご留意ください。
FASのネクストキャリア
FAS全体に見るネクストキャリア
早速統計データを見ていきましょう。以下の円グラフは、統計データに基づいて退職者の転職先をまとめたものです。
見ていたただくと明らかですが、事業会社への転職者が38.1%と最も多く、次いで独立19.0%、ファンド11.9%と続きます。事業会社とファンドだけで50%を占めるため、FAS業務を経験する中で事業サイドへ移りたいと思う方が多いようです。
事業会社サンプルのうち、転職先の部門まで確認できたサンプルによると転職先の部門は、M&A部門、戦略部門、経営企画部門、財務部門、経理部門、IT部門となっており、やはりFAS業務と関連のある部門が多い印象を受けています。
ファンドについては、プライベート・エクイティ(PE)ファンドがマジョリティですが、一部ヘッジファンドへ行かれた方もいました。ファンドへの転職者のFAS在籍期間は、平均値・中央値共に3年3ヶ月となっており、皆さん3年以上しっかり経験を積んだ上でファンドへ挑戦されているようです。
独立の19%について、FASから独立する方がこんなにいらっしゃるとは思わなかったのですが、独立された方のうち50%は監査法人出身の公認会計士であることを確認しています。公認会計士資格保有者は、開業することへのハードルは無資格者よりも低いと思うので、監査経験もあってFAS業務も提供できる人材なら尚更だろうなと思います。
上記以外については、コンサルと進学が7.1%となっており、コンサル転職者の中にはM&A仲介会社に進まれた方もいました。進学は、ロースクールや海外MBAが進学先となっています。FASや金融機関へ転職される方はそれぞれ4.8%、2.4%と意外と少数で、同業種ではなく次のステップへ行こうという方が多いようです。
FAS FA部門に見るネクストキャリア
離職率については後で詳しく見ていきますが、退職者のうち最も離職が多かった部門であるフィナンシャルアドバイザリー(FA)部門における人材の転職先について、簡単に触れておきます。
FA部門における退職者の転職先は、事業会社、独立、ファンドがそれぞれ20.0%という結果となっており、FAS全体で見た時と比較してファンドの率が上がっていることが分かります。やはりFAS経由でファンドを目指すのであれば、FA部門においてFA業務を経験しておくというのが王道ルートになっているようです。ただ一部財務デューディリジェンス(FDD)部門等他部門からファンドにジョインされた方もいらっしゃいましたので、必ずしも「ファンドを目指す = FA部門にジョイン」ということではありません。
BIG4 FASにおける在籍期間
長く働くつもりでFASにジョインする方は少ない、というイメージは皆さんお持ちかと思いますが、実際のところどうなのかという点について以下で見ていきたい思います。
以下に紹介するデータは既に退職した従業員数が母数となっており、全従業員数ではありません。その点認識した上でお読みください。
FAS全体に見る在籍期間
中の人の在籍期間
結果としては次の通りとなりました。
平均値と中央値の間に1年程度の乖離があります。これは、在籍期間10年以上のシニアな在籍者がデータに含まれているためで、彼らはデータ全体の10%程度を占めています。FASに来る方の大半は次を見据えていて長く在籍する想定はしていないと思いますので、10年以上の在籍者データを外した数値も参考情報として紹介しておきます。
いかがですか?こちらの方がイメージに近いのではないでしょうか。2年半~3年程度在籍をして次のステップへ、という方が全体的に見ると多いみたいですね。
3年後離職率/5年後離職率
FAS退職者のうち、3年以内に離職した人の割合と5年以内に離職した人の割合を参考までに分析してみました。
四季報では年度初めの従業員数に占めるその年度中の退職者の割合を使って離職率を算出していますので、四季報データとはApple-to-Appleになりません。その点ご注意ください。
60%弱が3年以内、80%弱が5年以内にファームを去っていることが分かります。全従業員を母集団とした場合にはその割合は下がると思います。そう考えると意外と3年後離職率は悪くないのかもしれないと推察できます。
離職率の高い部門
部門別に見たときにどの部門が離職率が高いかも見ておきましょう。順位付け(3位まで表示)すると以下の通りとなりました。
FA部門が50%弱を占める結果となっており、次いでStrategy部門、Restructuring部門と続きます。FA部門の離職者が高いのは、一因としてPEファンドへの転職等、ある程度次のステップを見越してジョインする方が多いからなのかなと思います。Strategy部門については、事業会社へ進まれる方が多いことから、FASで経験を積みつつチャンスがあれば事業会社の戦略部門や経営企画部門へ移ろうという方が多いのかもしれませんね。Restructuring部門は、統計データ上はマネジャー以上の方が独立等を理由に離職されており、在籍期間は比較的長めです。
FAS売上の貢献度が比較的高めのFDD部門は順位に入っていませんが、確かにFDD部門は、FA部門やStrategy部門より女性比率が高い印象を持っており、比較的プライベートとの調整もききやすく長期に働きやすい部門なのかもしれません。
FASスタッフに見る在籍期間
統計データのうち、管理職以上を除いたデータでも分析をしてみたいと思います。母集団の考え方自体はFAS全体で見た場合と同じで、離職したスタッフ(離職時点職位がスタッフ職)数が母数となっています。
中の人の在籍期間(スタッフのみ)
管理職未満のスタッフに母数を絞った場合の在籍期間は以下の通りです。
1年半~2年程度という結果となっており、全体で見た場合と比較してかなり短いですね。確かに私が入社した後にジョインしたにも関わらず、一緒に仕事をする機会もなく早々に退職されたスタッフは何名かいたと認識しています。それぞれ事情はあるのだと思いますが、1年未満で辞めたスタッフの割合はスタッフ離職者全体の30%を占めており、感覚的には高い印象を持っています。
3年後離職率/5年後離職率(スタッフのみ)
FAS全体で見た場合と同様に3年後離職率と5年後離職率も見ておきましょう。
数字を見ると明らかですが、かなり高い割合となっています。
離職率の高い部門(スタッフのみ)
スタッフのみで検証した場合における離職率の高い部門も見ておきましょう。結果は以下の通りです。
順位は全体で見た場合と変化ありませんが、FA部門の割合が過半数を超えてグッと上がりましたね。FA畑の人は若手の間に市場価値を上げるため、できるだけ早期に次のステップへ、という方が多いのかもしれません。一方で、そんなFA部門スタッフの在籍期間について分析した結果が興味深いのでご覧ください。
平均値2年3ヶ月と中央値2年6ヶ月という結果となっており、スタッフ全体で分析した場合と比較してみるとその在籍期間が長いことは明らかです。これを見る限りにおいては、2年以上しっかり在籍し、スキルを身に付けた上で次のステップへ進まれる方が多いということが推察されます。
まとめ
いかがでしたか?ポストFASのキャリアとしてどういった道があるのか、実際どんな道に進む人が多いのか、どのくらい在籍するものなのか、という点について少しイメージ持っていただけたのではないでしょうか。私は実際に分析をしてみて、FASを通じてのキャリアは多様であるという印象を受けました。多様だからこそ迷うこともあると思うので、FASへジョインするタイミングである程度キャリアの方向性を決めて入るのがベターであると考えます。当記事が皆さんのキャリア設計に役立ちますと幸いです。
他にもFASのキャリアに関する記事を書いています。
是非参考にしてみてください!
以上です!
コメント