WACC算定:負債コストの取得方法

FAS実務

加重平均資本コスト(WACC)は、以下の式により求めることが可能です。

WACC = 株主資本コスト × 資本比率 + 負債コスト(節税効果考慮後)× 負債比率

今回は上記構成要素のうち負債コストの実務上の取得方法について見ていきたいと思います。負債コスト取得方法の検討は、日本企業のWACC算定を想定して進めます。

実務上使用する負債コストの取得方法は大きく2つあり、1つは評価対象会社関連情報を使用する方法、もう1つがマーケットデータを使用する方法です。両者について以下で解説していきます!

評価対象会社関連情報を使用するケース

当該ケースには実務上3つの方法が考えられます。早速1つずつ見ていきましょう!

評価対象会社が発行する長期社債利回り

1つ目は、評価対象会社が発行する長期の社債利回りを使用するケースです。BIG4 M&Aアドバイザリーファーム(FAS)で扱うディールにおいて、評価対象会社が社債発行しているケースというのはほとんどありませんが、WACCが調達サイドの概念であることを考慮すると、評価対象会社自身が発行している長期発行社債の利回りを参考にするのが最も実態に即した負債コストであると言えます。

評価対象会社の長期借入金利

2つ目は評価対象会社の長期借入金に対する金利を参照するパターンで、実務上比較的よく見かけるケースです。初期的なバリュエーションでは他のデータを参照することがほとんですが、財務デューディリジェンスの結果評価対象会社の長期借入金利が明らかになるケースが多いため、最終的にはそちらを利用します。

買い手(親会社)の負債コスト

3つ目のケースは買い手である親会社の負債コストを参照するケースです。このケースを利用する場合は、案件の状況をよく検討の上プロジェクトマネジャーと要相談です。この考え方が許容されるのは、そのディールの結果評価対象会社が買い手の子会社となり、かつ買い手がキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)を導入している場合等です。具体的には、親会社で資金調達等を一括管理し、評価対象会社に必要資金を流すことが確定している場合において、買い手(親会社)の負債コスト(長期社債利回り/長期借入金利等)を採用するという整理が可能であると理解しています。

このアプローチを採用する場合は、株主資本コストとの整合性も考慮しなくてはならず、かつWACCの水準が低くなるため、事業計画の蓋然性というところもシビアに検討する必要が出てきます。全体の整合性を取るというところの難しさと合理的な説明のしづらさが生じてきますので、個人的には推奨しないアプローチになります。

減損テストで使用するWACCが減損対象CGU(Cash Generating Unit:資金生成単位)の事業規模等に対して異常に低い時などはこのアプローチで計算されていることが多いです。

マーケットデータを使用するケース

日本のWACC算定の際に用いられる負債コストは「10年物」の社債利回りを参照することが一般的です。株主資本コストの構成要素であるリスクフリーレートも、日本においては「10年物」の国債利回りを参照するため、そことの整合性を取る意味でも実務上は「10年物」を使用することが多いです。

評価対象会社の信用格付チェック

マーケットデータを使用する場合は、まず評価対象会社の信用格付を確認する必要があります。日本における信用格付としては、S&Pグローバル・レーティング・ジャパンやムーディーズ・ジャパン等があります。FAS実務においては、評価対象会社に格付がついていないケースがほとんどなので、「BBB」の社債利回りを参照することが多いと理解しています。

では何故「BB」や「B」ではダメなのでしょうか?ちなみに私は入社して数ヶ月経ったあたりで何故かと聞かれて答えらず「それぐらい理解しておけ」とたしなめられてしまいました。

簡単に解説をしておくと、「BB」や「B」の格付社債は投資不適格債であり、投資適格債である「BBB」以上の社債利回りと比較するとその水準は大きく跳ね上がります。それだけ倒産リスクが高いということですね。投資家にとってみれば投資不適格な銘柄でレバレッジを高めることは著しいリスクとなり、投資を控える方向に動くことが容易に予想されますし、統計データという意味でも、特に日本におけるBB格付社債以下の銘柄数は乏しくその信頼性は極めて低いと言えます。そういった理由から、実務上「BBB」格付以上が使用されていると理解しています。

Bloomberg端末から取得

画面スクショを張ることができないので、取得方法の概要を説明するだけになりますが、取り方としては2つあります。1つは端末の該当ページへ飛んで取得する方法、もう1つはExcelにBloomberg関数を組んで端末に読み込ませ、取得する方法です。証跡を残しておくという観点で、私は後者の方をオススメしています。

日本証券業協会ホームページから取得

日本証券業協会ホームページからデータを取得する場合、同社が公開している格付マトリクス表を使用します。格付けマトリクス表には、格付会社が提出する格付と各格付社債の利回りがまとめられています。下のボタンを押下してそこから基準日時点の格付マトリクス表データを取得してください。

2021年2月現在、上のボタンから対象ページに飛ぶことが来ますが、割と頻繁にホームページが変更されています。リンクが上手く機能しない場合は次のステップ1からの手順をお試しください。

ステップ1:日本証券業協会ページを開く

下のボタンから日本証券業界ホームページへ飛んでください(検索エンジンで「日本証券業会」と入力して飛んでもらっても大丈夫です)。

ステップ2:市場関連情報を押下

トップページが開いたら市場関連情報のタブを押下します。

ステップ3:公社債市場を押下

遷移先の画面に「公社債市場」という項目があるのでそちらをクリックします。

ステップ3:公社債店頭売買参考統計値/格付マトリクス表を押下

画面遷移した先で「公社債店頭売買参考統計値/格付マトリクス表」をクリックしてください。

以下の画面が開けばOKです。

日本証券業協会格付マトリクス表を使用する場合の留意点

2021年2月現在、10年物BBB債の銘柄数が「1」となっています。銘柄数が「1」のデータを統計値として使用するのはどうかという議論があるのと、上の9年物との比較において利回りが低い値を取っていて理論に即しません(一般的に期間が長い社債利回りの方が高くなります)。この点についてはチームで話し合い、取り扱いを検討する必要があります。

あくまで一案ですが、格付マトリクス表より9年物BBB社債利回り(銘柄数「7」)を参照し、その値に同じ日付時点の9年物国債と10年物国債のスプレッドを加算するという方法が考えられると思います。

スポンサーリンク

まとめ

負債コストの取得方法にはいろんな方法があるため、案件に応じて参照するデータを検討していく必要があります。機械的に取得して合理的な説明ができない、なんてことにならないように、実務においてはしっかり検討したいですね!

みやび
みやび

WACC算定の関連記事は以下の通りです!良ければご参照ください!

以上です!

コメント

タイトルとURLをコピーしました