今回はBIG4 M&Aアドバイザリーファーム(FAS)の組織構造とプロモーションについて書いてみたいと思います。組織の構造とプロモーションというのは密接に関係しています。上が詰まっている組織においてはプロモーションハードルが上がる、というのは想像に難くないと思います。BIG4 FASに入社される方は、何年でプロモーションできるのか?という所は気になる部分だと思いますので、その辺りにも触れつつ書いていきたいと思います。
BIG4 FASの組織構造とプロモーション
BIG4 FASの組織構造
BIG4 FAS組織の全体構造については明確なデータをお示しできないのですが、某ファーム某部門におけるスタッフとマネジャー以上人員の人員構成割合をお示しします。これは、私がFASに入社後のある時点における人員数を数えて得たものです。他ファームや他部門の様子も情報として入ってきますが、多少違いはあれど感覚的にはどこも類似しているもしくは同じ傾向になりつつあるということで認識しています。
このデータ、私が仕事に疲れていた時に何となく数えたものなのですが、結果を見て余計に疲れました。笑 薄々気付いてはいましたが、マネジャー以上の数がスタッフの数とほぼ同等という結果となっています。1案件に対してスタッフが1名張り付けられて回す案件は少なく、大抵2~3名のスタッフがアサインされます。ということは、マネジャーがプレイングマネジャーでない限り手を動かす人材は慢性的に不足しており、スタッフは複数案件を同時並行で回していくことになります。単純にスタッフの負荷が高くなるということは容易に想像できると思います。
この構造から悪化しなければ現状維持だし良いんじゃないの?という話なのですが、確かにそうです。私の場合は何とかなっているので、このままの組織構造が継続するのであればやっていけると思っています。一方で、以下の記事で紹介した退職者のデータを踏まえて見てみるとどうでしょう?
以下は、スタッフ及びマネジャー以上の退職者それぞれが、退職者データ上の全退職者に占める割合を示しています。
以降に示す数値は全て上の記事で用いた前提と同じ前提で計算しています。
スタッフの退職者割合の方が多いことは一目瞭然です。スタッフの在籍期間とマネジャー以上の在籍期間についても見ておきましょう。
マネジャー以上の退職者の中には、在籍期間が異常に長い人が混ざっているため平均値と中央値に乖離がありますが、そういった異常値を排除するまでもなく明らかにマネジャー以上人材の在籍期間の方がスタッフと比べて長いことが分かります。
上記から分かることは、仮にスタッフの採用をせずに現状を維持する場合、上層が異常に重たい組織となり、手を動かす人がほとんどいなくなるもしくはマネジャーがセルフデリバリーする日が来るということです。
それを避けるために各ファームは日々スタッフの採用活動に力を入れているわけですが、ファームとしてはやめるスタッフ数を優位に上回る人員を採用し続ける必要があります。とは言え、特別に教育体制が整っているわけでもなく、結局経験者かポテンシャルのありそうな優秀な人材を採用せざるを得ないという状況です。一方で、そういった人材がたくさん採用できるかというとそれはそれで大変です。FAS以外にもM&Aを手掛ける会社はありますし、優秀層は金融機関IBD部門等に流れていきます。組織構造を改善どころか維持するのも難しいのでは?と私は思ってしまいます。
BIG4 FASのプロモーション
プロモーションから派生する問題
プロモーションの観点でも考えてみたいと思います。スタッフからシニアスタッフへのプロモーションは大体2~3年程度と認識しており、シニアスタッフからマネジャーも順調にいけばそのくらいと理解しています。BIG4監査法人やコンサルティングファームと比較すると少しゆっくりな印象を受けるかもしれませんが、それぞれの職階で求められるスキルや業務の難易度を考えると特段違和感はありません。
さて、上で説明した組織構造と合わせて考えてみます。中の人としては、頑張ってパフォーマンスを出していれば2, 3年ごとにプロモーションしていくという状況は非常に嬉しいものですが、上記の昇進スピードで徐々にマネジャー以上が増えていくとどうなるでしょうか?それまでに転職するスタッフはもちろん多いのですが、マネジャー以上となるまで残るという人も一定数います。マネジャー以上の評価基準は、デリバリーで成果を上げることではありません。もちろんプロジェクトマネジャーをした案件はポイントとなりますが、営業活動をして新規顧客から案件を取ってこないと今あるパイを分割するだけなので、ファームの売上としては伸びていきません。もっと言えば、マネジャー以上が増えるということはコストの高い人が増えるということなので、それをカバーする案件がないと採算が合いません。
ではマネジャー以上の人材が、プロジェクトマネジャーをしながら新規案件を取ってこれるかというとなかなか難しいというのが現実です。そもそもデリバリーをメインで手掛けていたスタッフからマネジャーになって、突然カバレッジができるようになる人なんていません。また、パートナーやディレクターが拾ってきた案件のプロマネをするのに忙しく、提案資料を能動的に作成している姿を見ることは少ないです(無理矢理作成させられているのは時々見ます)。結局既存顧客からの案件を分配してマネジャーの評価対象案件を増やす、という構造になっています。
仮に新規の案件が取れたとしても、そのしわ寄せは案件を支えていた優秀なシニア層を失ったスタッフに押し寄せてきます。優秀なシニアが抜けたことで1人1人のスタッフにかかる負荷は大きくなりますし、仮に新人スタッフがジョインしたとしても即戦力となるケースは少ないです。上記の通りマネジャーは多忙であり、新人スタッフに丁寧に教育がなされるということもありません。そうするとある程度仕事を回せるようになったスタッフが案件を主導して回しながら、なぜか新人スタッフの教育もするという構造が出来上がります。そうなると、「なぜマネジャーが本来やるべき仕事をしているのに彼らより待遇が低いんだ?プロモーションないなら辞めようかな。」という人が出てきます。せっかく戦力となったスタッフを手放すのは法人としては痛いので、そうさせないようプロモーションを検討します。プロモーションをさせたらさせたで上記したような問題がより深刻になる形で露呈し、結局対症療法的にだましだましやっていくしかなくなってしまっている、というのがBIG4 FASの状況のように思います。
シニアマネジャー限界問題
マネジャーからシニアマネジャー、ディレクターといったプロモーションは、スタッフ⇒シニア、シニア⇒マネジャー以上に厳しいものとなります。「実力がない」という言い方は不適切だとは思いますが、そういった人たちはシニアマネジャーでプロモーションが止まります。何年もシニアマネジャーをやっているという人は一定数いて、そこに滞留していきます。高コストで売上目標を達成できない人材が溜まっていくとどうなるかは分かると思いますが、法人の収益性は悪化します。また、そういった滞留人材による影響は当然業績賞与の額等にもはねてくるのでスタッフのモチベーションは下がります。更にはそういったパフォーマンスが出ない滞留人材を抱えたいびつな組織においては、組織構造的な理由で一定以上プロモーションできないという状況になる可能性があります。そうするとパートナーを目指して頑張ろうというスタッフの数は減少し、昔から長く在籍している人材が甘い蜜を吸うような組織に用はないと、必要スキルを獲得次第出ていくスタッフが増加します。
まとめ
ファームによって異なるかもしれませんが、FASに限らず上記したような問題はあると思います。私自身はあまり長く在籍するつもりでジョインしていないため、ある程度割り切っていますが、何れにしても夢のない組織よりは夢のある組織の方が良いですよね。今後のBIG4 FASへの転職者のことを考えると、組織構造上の問題はある程度解消されて欲しいなと思います。
他にもBIG4 FASに関する記事を書いています!
良ければご参照ください!
以上です!
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