以下の記事にて、2020年におけるBIG4各社のM&Aリーグテーブル(リフィニティブ提供)について触れました。
今回は2021年版ということで書いていきたいと思います!BIG4 M&Aアドバイザリーファーム(FAS)へのジョインを検討されている方は是非参考にしてみてください。
M&Aリーグテーブルから見るBIG4 FAS
データ分析の前提
2020年と比較して読みたいという方もいらっしゃると思いますので前年と同じ以下の前提で話を進めます。用語の定義についても合わせて記載しています。
ランクバリューデータから見るBIG4 FAS
2020年版に2021年のデータを追加したグラフを以下に示します。
掲載してみたものの、2020年のDeloitteのランクバリューがノイズとなり各社の比較がしづらい状況となっています。ですので、2021年のランクバリューのみを取り出して以下の通り棒グラフにしてみました。
2021年はKPMGが首位、それにDeloitte、PwC、EYがこの順位に続く形となりました。1社ずつ見ていきましょう。
KPMG
2019年、2020年とDeloitteやPwCよりも高いランクバリューを示せなかったKPMGですが、各社ランクバリューが低迷したことにより2021年は1位となりました。KPMGのランクバリューが前年比で14.0%増加なので、同社のランクバリューが劇的に伸びたとは決して言えない状況です。
新卒採用を開始し、中途採用含め人員拡大を図っていると業界内で言われている同社ですが、新規で蒔いた種の芽が出るのはもう少し先なのかもしれません。
Deloitte
2020年6兆円を超えるランクバリューを叩き出し、BIG4の中で堂々の1位を飾ったDeloitteは2021年、KPMGにその座を譲る形となりました。2020年のDeloitteのランクバリューが異常値的な位置づけであり、正常値に戻ったという見方もできます。但し、DeloitteはBIG4 FASの中では変革にアグレッシブなファームであると認識しており、同社が来年再来年に2020年と同水準のランクバリューを叩き出してくる可能性は十分あるものと推察します。
2020年に引き続き2021年も何かと話題になっていた同社の動きについてもう少し見ておきたいと思います。
2020年9月1日、経済産業省の決定により国の持続化給付金の委託先が電通からDeloitteに変更されました。コロナウイルスの蔓延に伴い2020年末から2021年にかけ、Deloitteは新卒入社人員を含む従業員を持続化給付金プロジェクトにアサインし、中の人からは様々な声が上がりました。同プロジェクトへのアサインをきっかけにそれなりの数の人員が流出したと聞いています。私の知人も同プロジェクトに一時期アサインされていましたが、「このファームに自分は一体何をしに来たんだろう?」という旨の愚痴をこぼしていました。
FAS業務の実務経験獲得を目指してジョインした人からすれば不満爆発案件となった上記給付金プロジェクトですが、ファームの戦略としては悪くないのでは?と私は見ています。特に大型のM&A案件を獲得しに行く場合、収益の基盤があることは一つ大きなメリットとなります。収益基盤がなく業績が厳しい状況下においては、小粒案件や低い報酬の案件であっても予算達成のために拾いにいかなくてはなりません。一方で、当初報道ベースでの国からの給付金プロジェクト委託費は427億円、再委託費284億円を差し引いても143億円が手元に残る、そんな同社はファーム全体の予算を気にせず冒険することが可能となります。つまりは、採算性の低い案件を無理して獲得しにいく必要性が薄くなることを意味します。
通常FASでは、財務デューディリジェンスやバリュエーション、モデリング等の業務で収益基盤を作り、大型フィナンシャルアドバイザリー(FA)案件獲得を狙うというのが王道戦略だと認識しています。但し、流石にFA案件ゼロだと予算達成は厳しいため、採算性の低い案件も拾いつつ動くことになります。一方Deloitteは、給付金プロジェクトの収益基盤があるため、大型案件のみの狙い撃ち戦略を獲ることも可能であると私は考えています(※実際どういう方針となっているかは把握していません)。
というわけで、上にも既に書いた通り、2020年のようにランクバリューを大幅に引き上げてくる可能性は十分あるファームとして認識しています。
PwC
2020年、Deloitteのランクバリューに圧倒されて目立たなかったPwCですが、実は同年1兆円のランクバリューを達成しています。しかしながら2021年は前年比△72.7%と大きくそのランクバリューを下げる結果となりました。
元々事業再生に強いファームであり、その色は今も色濃く残っていると認識しています。また、早くから新卒採用をしているファームであり、新卒人員を一定数取り込んでいると見られるストラテジー部門は他3社の同部門よりもプレゼンスがあるという話も聞きます。今後ランクバリューを回復させるべくM&A案件の獲得に力を入れるのか、又はリストラクチャリングやストラテジー領域の強化を図ることによって収益拡大を目指すのか等今後の動きが気になるところです。
EY
EYのM&A部隊は、後でも触れますが人員数含めBIG4の中だと最も弱いと認識しています。しかし2021年のランクバリューを見ると、ランキングこそ4位のままであるものの、前年比174.9%増という劇的な飛躍を見せています。2019年水準に戻ったと言ってしまえばそれまでですが、組織構造を変えながらじわじわと変革しているEYの今後の動きは気になるところです。
2020年10月1日にEYにおけるFASとして認識されていたEY TASは、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社と統合し、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にてストラテジー・アンド・トランザクション(SaT)事業部として存在しています。Deloitte(コンサルティング)より近藤氏率いるチームがEYに移ったことにより、SaT事業部の強化も図られるものと思われます。
案件数データから見るBIG4 FAS
次に案件数も見ておきましょう。
前年と比較するとKPMGがDeloitteの案件数を上回っていますが、両社が1位2位を争う構図は数年前から特に変わっていません。案件数だけを見てどうこうという議論はあまり生産的とは言えないので、前回同様FA部門の想定部門人員1人当たりの案件数を見てみましょう。
従業員数はある程度把握ができるものの、FA部門の人員数は把握が困難であるため、2020年の時と同じアプローチで想定部門人員数を算出します。この数値の根拠は週刊ダイヤモンドの2021年2月13日号であり、同誌に記載のあったDeloitteのFA部門人数割合を各社に適用しています。Deloitteの人員構成比も変わっているでしょうし、各社の人員構成割合も異なるでしょうが、今回はこちらの前提で進めます。
こちらが2022年2月時点の各社従業員数、かっこの中身がFA部門の想定人員数となります。2020年版とデータソースが異なるため単純比較はできませんが、各社人員数は増加傾向にあると見られます。
さて、1案件当たり3名で対応という仮定を置いて、年間1人当たりが担当する案件数を検討してみましょう。結果は以下の通りです。
KPMGが3件程度と最も多くなっていますが、これからの人員拡大の動きの中でこの数値は徐々に減少していくと推察されます。将来的にEYを除く3社は、どこへ行っても関与案件数に大きな差がないということになるかもしれません。経験がものを言う業界なので、FASへのジョインを検討されている方は引き続きこの辺りは動向をチェックされると良いでしょう。
1案件あたりのランクバリューから見るBIG4 FAS
最後に1案件あたりのランクバリューを見ておきます。
こちらも時系列だと見づらくなってしまったため、2021年だけ抜粋して棒グラフにしました。ご覧いただくと、KPMG、Deloitte、PwCについては1件あたりランクバリューは60億円前後となっています。私がこれまで関与してきた公開案件のディールサイズを考えても特に違和感のない水準です。
今回注目すべきなのはEYです。1社だけ飛び抜けて高い水準となっており、1案件あたりのランクバリューは約160億円にのぼります。どの案件がこの結果を導いたのかまで特定できていませんが、EYは人員数が少なく数がこなせない分、規模の大きい案件を獲得して収益を上げる方針を採っているのかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたか?時にはこういった定量的なデータも参考にして、自身の希望のファームを特定してみるのも良いと思います。また、面接時の逆質問に活用してみるのも、面接官の興味を引けて良いかもしれませんね。是非当記事と2020年版の記事を新卒就職活動や転職活動にご活用ください!
記事の中で参照したダイヤモンドのリンクも貼っておきますので、まだ読まれていない方はそちらもご参照ください。
以上です!
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