今回は、リフィニティブ(旧トムソン・ロイター)により公表された「M&Aリーグテーブル」をベースに、BIG4のM&Aアドバイザリーファーム(FAS)の状況を見ていきたいと思います。
このリーグテーブルの結果から得られる考察は、ジョインするファーム選びにも大きく関わってくると思いますので、FASへのジョインを検討されている方は是非当記事を読みながら一緒に考えてみてください。
M&Aリーグテーブルデータから見るBIG4 FAS
データ分析の前提
話を進めるにあたって、用語の定義と集計の前提を以下に記載します。
・Deloitte:デロイトトーマツフィナンシャルアドバイザリー合同会社
・KPMG:株式会社KPMG FAS
・PwC:PwCアドバイザリー合同会社
・EY:EYストラテジーアンドコンサルティング株式会社M&A部門(旧EY TAS)
・ランクバリュー:株式価値にネットデットを加算した価値
・分析対象:公表案件(=クローズしていない案件を含む)
・不動産案件:分析対象外
ランクバリューデータから見るBIG4 FAS
以下は2013~2020年までのランクバリューデータを私がグラフでまとめたものです。
2020年の公表データを見たとき、私はDeloitteの集計結果が間違っているのかと思いました。皆さんも統計データとしてこれを見た場合、Deloitteだけ異常値過ぎて誤りを疑いたくなりませんか?しかし、Bloombergより公表されているデータでクロスチェックをするとほぼ同水準のランクバリューであり、間違いなさそうでした。
そんな目を疑うリーグテーブルの記事が2021年2月13日号の週刊ダイヤモンド(以下、「ダイヤモンド」と言う)に掲載されており、Deloitteの躍進について触れられていました。2020年のDeloitte案件で個人的に印象に残っているディールはキリン堂ホールディングスのMBO(マネジメントバイアウト)案件ですが、本件でそんなにランクバリューは伸びないよなあと思っていたところでダイヤモンドを読み、納得しました。
2020年9月、NTTのTOB案件でNTTドコモを完全子会社化した案件がありましたが、Deloitteは本件においてフェアネスオピニオンを提出しており、それによって取引価額4兆円超がそのままランクバリューに反映されている旨がダイヤモンドの記事に書かれていました。
もちろん2020年だけたまたま規模の大きい案件が獲得できたという可能性も捨てきれませんが、ダイヤモンドでも触れらている通り、Deloitteが大型案件を手掛ける体制構築をこれまで進めてきたというのは、2017年からのランクバリューの堅調な増加にも表れているのかなと思います。
思えばDeloitteは、2018年頃から中堅・中小企業向けのM&Aマッチングプラットフォーム「M&Aプラス」のリリースに向けて動いたり、地方事務所の業容拡大を進める等ミドルマーケットの開発にも力を入れていました。また最近では、2020年11月にミドルマーケットを対象としたM&Aアドバイザリーファームである株式会社TMACの全株式の取得等をおこなっており、引き続き案件獲得の可能性を拡げる動きを続けています。こういった従来のFASの殻を破ろうと様々な動きを明示的にしているのは、私が知る限りDeloitteのみで、他BIG4がその結果を見て同じ方向に舵を切るや切らないやという部分を検討しているように思います。
Deloitteの成果が著しいのであまり目立ちませんが、PwCも2019~2020年にかけてランクバリューを伸ばしており、その額は1兆円を超えています。グローバルネットワークを生かしたOUT-IN(外資会社による日本会社の買収)案件に注力しているPwCですが、おそらくそのネットワークを引き続き活用することでランクバリューを伸ばしていくものと思われます。ダイヤモンドの中でもフィナンシャルアドバイザリー(FA)サービスの体制強化に向けて動いている旨書かれていましたので、国内案件での飛躍も期待されるところです。
BIG4の中では独自路線を行き、毎年比較的上位で推移してきたKPMGですが、2020年のランクバリューは芳しくない結果となりました。この要因の背景として、大型案件を獲得することができなかった等が考えられますが、少数精鋭で安易な人員拡大をしないということ以外に特筆すべき強みや戦略が見えないKPMGは、これからの動き方次第ではDeloitteやPwCに大きく引き離されていく可能性も否めません。ひっそりと新卒採用を始めたとのことですが、DeloitteやPwCの後追い感もあり、今後の戦略には注目したいところです。
近年はFA業務よりもモデリング業務等に力を入れている印象のあるEYですが、組織変更によりEY TASがEYアドバイザリーアンドコンサルティング株式会社とくっついて1つの会社となりました。組織変更による効果が発揮されるのはもう少し先だとは思いますが、コンサルティングのセクター強化の延長でFA業務を伸ばしてくる可能性もあり、今後の動きが気になるところです。
案件数データから見るBIG4 FAS
次に案件数を見てみましょう!こちらもランクバリューと同様2013~2020年の案件数データを私が独自にグラフ化したものになります。
直近を2年を見ると、案件数が多い順にDeloitte、KPMG、PwC、EYとなっており、今後もこの順位のまま推移、もしくはKPMGとDeloitteが入れ替わる程度で大きな動きはないものと思われます。
FAS入社を希望される方で、特にFA部門への入社を志す方は各社の取り扱い案件数には注目しておきたいところです。BIG4 FAS各社の従業員数は、2021年2月現在収集可能な情報によるとざっくり数値で以下のとおりとなっています。カッコ書きの数値はFA部門の人員数を示しており、ダイヤモンドで記載されたDeloitteのFA部門人数割合を各社に適用した概算となります。
・Deloitte:1,000名(160名)
・PwC:600名(96名)
・KPMG:500名(80名)
・EY:350名(56名)
1案件当たり3名で対応すると仮定し、2020年の案件数ベースで年間一人当たりが担当する案件数を考えてみると、以下の通りとなります。
・Deloitte:1.82件
・PwC:1.72件
・KPMG:3.08件
・EY:0.80件
各社のFA部門の人員数は仮置きの数値ですし、案件規模が大きくなるほど投入人員数も多くなるため、上記はあくまでも目安でしかありませんが、FAは案件こなしてなんぼという世界なので、年間どのくらいの案件に関与できそうかというのはひとつ念頭に置いてファーム選択をするのが個人的には良いと思います。
1案件あたりのランクバリューから見るBIG4 FAS
最後に1案件あたりのランクバリューのグラフについてコメントをしていきたいと思います。こちらは、各年のランクバリューを対応する年度の案件数で除したデータを使って作成したものになります。
個人的には結構意外だったのですが、KPMGの1案件当たりのランクバリューの推移を見ているとPwCやEYより低い年度が多く、2020年に至ってはEYと同程度の水準となっています。DeloitteはミドルマーケットのM&A開拓を進めてきたというところもあり、1案件当たりのランクバリューが小さいのは特に違和感がなく、2020年についてはNTT案件を含む大型案件受注による飛躍なのでこの伸びも事実と整合します。
PwCに関しては、クロスボーダー案件が他社比較で多いと認識しており、グローバルで力のある事業会社がクライアントであることが予想されるので、その分案件規模は大きくなるのかなと思っています。
まとめ
いかがでしたか?転職サイトの口コミ等もファーム選びの参考になりますが、こういったデータを活用して希望するファームを探ってみるというのも1つの方法です。また、記事の中で触れたダイヤモンドについては、FASに限らずBIG4志望者であれば是非一読することをオススメします。各社の戦略や目指している方向性が把握でき、非常に参考になると思います。
独立系FASのM&Aリーグテーブルについてもまとめていますので、合わせてご参照ください!
以上です!
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