M&A入門:理解必須!株式譲渡と事業譲渡の実務上の論点

FAS実務

企業の買収/売却スキームには色々ありますが、大きくは2つに分かれます。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡

M&A業務に関与するにあたって、この2つの違いをおさえておくことは非常に重要です。

私は、「この案件はアセットパーチェスだから税法上のれん償却出来ますね~」みたいなことをM&Aファーム入社間もない頃に言われて、あれ?なんでだっけ?となったので、説明できない方は是非当記事を読んで理解を深めてみてください!

株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡と事業譲渡:取引主体について

株式譲渡とは、株主が保有する株式を別のオーナーに譲渡することです。一方、事業譲渡とは、会社が事業を切り出して別の会社に譲渡することです。

要するに、この2つの「譲渡」は取引の主体が異なります

売手サイドから見た時に譲渡対価を得るのは、株式譲渡の場合は元のオーナー、つまり前の株主です。一方で、事業譲渡の場合、譲渡対価を受け取るのは事業を切り出した会社です。

つまり、事業譲渡に関しては、まず売手である対象会社において対価である利益について課税(法人税等)され、その対価をオーナーに分配する場合、オーナーに対しても課税(配当課税等)されるということになります。なので売手サイドのオーナーから見ると、事業譲渡を選択するうまみは薄いと言えます。

逆に買い手サイドで考えると、将来のキャッシュフロー創出に寄与するコア事業のみを切り出して取得できるため、不要事業等も取得対象に含まれる株式譲渡と比較すると有利であると考えられます。

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事業譲渡:税務上ののれん償却

価値のアップサイド要因

上述のとおり、事業譲渡においては取引の主体が会社になり、取得価額の譲渡資産負債に対する超過分は売り手に課税されます。買い手から見た場合、この差額分は税務上ののれん(資産調整勘定)として認識され、日本においては5年間に渡って償却されます。

勘の良い読者なら気付かれたかもしれませんが、バリュエーション上この税務上ののれんの償却に係る税効果は事業価値への上乗せ要因となります。

インカムアプローチの場合、この税効果は実務上各期の償却費を計算し、現在価値に割り引いて事業価値にアドオンします。

株式譲渡において発生するのれんとの違い

株式譲渡において発生するのれんとの違いについても簡単に触れておきたいと思います。株式譲渡においては、のれんは連結BS上に計上されるもので、買い手サイドの単体BSには「子会社株式」が表示されます。

税金は、連結納税等の場合を除き、基本的には単体ベースで計算されるため、連結ベースにおけるのれん償却費が会計上費用処理されても、税務上の損金算入対象とはなりません。そういうわけで、株式譲渡と事業譲渡の場合でのれん償却の取扱いに違いが生じるのです。

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事業譲渡:繰越欠損金の利用

税務の観点で、売り手のオーナー(株主)にとって、事業譲渡を選択するメリットが薄いという内容について上で触れました。但し、例えば売り手の譲渡対象事業に赤字の期があり、繰越欠損金が利用可能な場合、法人に対して課税される分を減らすことができます。

なので、繰越欠損金が多額にあり、事業譲渡に対する所得にぶつけて相当額を相殺できる場合には、売り手サイドが事業譲渡を選択するハードルがぐっと下がります。

まとめ

今回は、買収/売却スキームに関して、株式譲渡と事業譲渡という大分類について触れ、その違いを解説してみました。実際にスキームを考える時は、上記分類を更にブレークダウンし、各スキームのメリットデメリットを検討していくことになります。

しかし、詳細なスキームを検討する前に、まず当記事で触れたような上のレイヤーでの分類をしっかりおさえておく必要があります。

以上です!

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