都内ワンルーム不動産投資:M&Aコンサルによるシミュレーション

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BIG4ファームに勤めていると、どこから名簿が漏れているのか会社携帯に不動産投資の勧誘電話がかかってきます。また、会社の前で待ち伏せされて声をかけられることも。

株式投資等に制限が多い監査法人系列のファームにおいては、不動産投資に手を出す人が多いです。それで脱サラした人なんかも実際にいます。不動産営業の方からすれば、そんなポテンシャルを秘めた人材が集結する会社を見逃すわけにはいきません。

私はそういった不動産勧誘については基本的にお断りしているのですが、知人のつてで話を聞く機会があり、興味本位でシミュレーションを出してもらったことがあります。

投資対象は都内ワンルームです。話を伺った方に限らず、不動産投資勧誘で勧められるのは決まって都内のワンルームマンションです。まあ外資系金融機関ほど飛びぬけた給与水準でもない若手のサラリーマンがマンション1棟買いできるとは到底思えないですし、営業側からしてもハードルが高くなりますしね。

さて、今回は都内ワンルームの不動産投資ってどうなの?というところを、M&A専門家の立場から考察してみたいと思います。

不動産業者から提出されるシミュレーションの欠点

不動産投資に限らずですが、物件購入に際しては、金利や月毎の支払いを加味したシミュレーションを出してもらうことができます。やはり定量化したものがないと、買い手側としては警戒して前に進まないですしね。こんなシミュレーションも欲しい、この場合は?みたいな個別の要求も比較的聞いてくれます。

さて、そうして出てくるシミュレーションの結果(結論)は、投資開始日から数十年後までのキャッシュアウトとキャッシュインの合計値がプラスなのでお得ですよ、という内容です。

ファイナンスの観点からすると、この結論はかなり粗いものになります。何故なら、時間的価値が全く考慮されていないからです。

今受け取れる100万円と30年後に受け取れる100万円の価値は、同じでしょうか?

答えは「NO」です。

例えば年利1%で100万円を複利運用すると、30年後の価値は135万円程度になります。つまり、将来の135万円が今の100万円と同等の価値ということになります。

この部分については、現価係数を使用してモデルに適切に反映させる必要があります。

アプローチの選定

さて、不動産業者より提出される不動産投資のシミュレーション上には、年毎に支払う管理費用等キャッシュアウトに関する情報と、不動産収入として得られるキャッシュインに関する情報が記載されています。つまり、将来のキャッシュフローを把握することが可能ということです。

評価実務においては、大きく次の3つのアプローチが存在します。

・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
・コストアプローチ

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り引くことで評価する手法。評価実務上最もよく使われる手法であるが、将来計画値によりその価値が変動するため、恣意性が結果に反映されやすいという側面もある。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、評価対象について、取引が活発な市場が存在する場合において有効な評価手法。一方、そういった市場が存在しない、又はそうした情報にアクセスできる環境にない場合には利用できない。

コストアプローチ

コストアプローチは、資産や負債の積み上げで評価する手法。基本的には評価時点における時価情報を基に算定される。

さて、今回のケースで最も適切なのは、ずばり「インカムアプローチ」です。マーケット情報は不動産業者であればアクセス可能と思いますが、一般人には閲覧できません。よってマーケットアプローチの使用は現実的ではありません。また、コストアプローチについては、不動産鑑定評価等をとって評価することとなりますが、これもまた現実的な選択肢とは言えません。

シミュレーション条件

次の条件を受領したので、これらを素直に使用して計算してみることにしました。ベースケースと悲観ケースを受領しましたが、ここではベースケースを使用することにしました。

・借入金額:29,700千円
・金利:35年全期間固定1.65%
・空室リスク:4年に1回1ヶ月の空室
・月収入:101千円
・月費用:93千円+手数料+管理費用
・償却期間:20年

税金については、買い手固有の事象(収入等)を排除するために、あくまで投資損益に係る部分のみを簡便的にしています。また、住宅ローン控除や固定資産税についても計算から除外しました。

シミュレーション結果

上記条件でシミュレーションをした結果、シミュレーション期間において得られるキャッシュフローは、「90万円」となりました。結果だけ見るとプラスのキャッシュフローなので「GO」となります。

計算ワークシートも参考までに貼っておきます(横長なので途中グループ化して端折っています)。

シミュレーションに関する考察

結果だけ見るとこの投資は「GO」だと書きましたが、私はこの投資をお断りしました。
その理由について書いていきたいと思います。

シミュレーション期間は適切か

このシミュレーションは、期間50年です。つまり、20代後半の私が80歳近くになるまでのシミュレーションとなります。平均寿命が延びているとは言え、そこまで引っ張ったシミュレーションにどれほどの意味があるでしょうか。

子孫に遺産を残すという観点では良いのかもしれません。しかし、老朽化して管理が大変になっているであろう50年後のワンルームを子供の世代に押し付けたくないな、と私は思ってしまいました。

では期間40年でシミュレートしてみた場合はどうでしょうか。

結果は、「▲312万円」でした。

借入返済が35年で完了する計算になっているので、そこで初めて黒字転換(黒転)します。そこから5年運用したところで、過去のキャッシュアウト分は回収できないということなんですよね。

自身がしっかり投資を管理できるのは、これから40年後くらいまでが限界かなと思うので、実質これくらいが妥当なキャッシュフローと考えています。

上記のシミュレーションにおいては、物件の売却価値を無視しています。都内の好アクセス物件であれば、その資産価値がゼロとなることはないでしょう。しかしながら40年後50年後の物件売却価値を想定することは困難であるため、保守的にゼロとして考慮していません。売却前提とするのであれば、本来的には加味すべき部分です。

繰上返済はキャッシュフロー改善に寄与するか

自分で計算してみた結果こうなりました、と不動産業者に説明すると、「繰上返済すればもっと早く黒転しますよ!」と食い下がってきました。

これは確かにその通りなのですが、現在価値を計算に織り込んでいる以上、大きなインパクトとしては結果に反映されません。また、繰上返済するタイミングや金額によってはキャッシュフローが悪化します。なので、繰上返済は残念ながらキャッシュフローを積極的に改善しにいく解決策にはならないのです。

まとめ

ワンルーム投資の位置づけは、あくまで老後の備えのためという印象です。老後資金の調達は別途考えているので私には魅力的に移りませんでした。リスクの観点で見ると、比較的ローリスクかミドルリスクという印象ですので、ライフステージに応じてうまく活用するのが良いと思います。

私自身は不動産投資をやるなら思いっきりレバレッジをきかせて1棟買いしにいくのが良いのかな~なんてぼんやりと思っていますが、いつになることやら。。。笑

以上です!

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