今回はクライアントからよく尋ねられる質問について、取り上げてみました。当記事の内容を読むにあたって前提をご理解いただく必要があるので、本題に入る前に少し解説を入れています。
M&Aエグゼキューションプロセスの中で、対象事業又は会社の価格を決めることは、重要なプロセスの1つです。このプロセスをバリュエーション(価値算定)と呼びますが、大きく次の3つのアプローチが存在します。
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
・コストアプローチ
このうち公開案件でよく用いられるのが、DCF(ディスカウンテッドキャッシュフロー)法(インカムアプローチ)と類似会社比較法(マーケットアプローチ)です。
M&Aアドバイザリーファームにおいても、基本的には上記手法を採用することが多いですが、今回はDCF法に関する内容です。
DCF法:事業計画の重要性
DCF法により求められる事業価値は、事業計画と加重平均資本コスト(WACC)によって決まります。その他要因も勿論価値に影響を及ぼすものの、事業計画とWACCほどのインパクトはありません。
WACCは一定のファイナンス理論に基づき算定されるものであり、採用する類似会社によってその水準は変動するものの、恣意性を入れずプレーンに算定をすれば、BIG4で算定しても金融機関で算定してもおおよそ近しい水準に落ち着きます。そういう意味では、事業計画が最も価値にインパクトのあるファクターだと言えます。
更に、まともな専門家であれば、事業計画の蓋然性も考慮した上で、WACCを作っていきます。楽観的な事業計画であれば、そのリスクをWACCに織り込み、通常よりも高いWACCを使用します。つまり、事業計画の蓋然性がWACCの水準を決めることになります。
ここまで読んで、事業計画の重要性はご理解いただけたかと思います。では本題に入りましょう。
「事業価値」等の価値概念については以下の記事で解説しています。
DCF法:事業計画は何年分必要か?
実務的な回答
冒頭書きましたが、クライアントから尋ねられる頻度が大変高い質問です。100年分ですかね~とか言われたら本当に100年分作ってくれるんだろうかと思いながら、「一定の確度で見立てられる年数分をご提出ください」とお答えしています。
そう言うと大抵3~5年くらいの事業計画が提出されてきます。10年以上のものを作ってくれるクライアントもいましたが、結局確度が高いと言えるのは5年くらいまででした。
上記を踏まえ、M&Aに慣れておらず言われた分作りますので、というようなクライアントに対しては、3~5年で作ってくださいとお願いするのが良いと個人的には思います。
理想的な年数
上で100年分とか書きましたが、これは割と冗談ではなく、ビジネスが安定するまで100年かかるのであれば、理想的にはその100年分の事業計画を使用するのが望ましいです。
DCF法においては、EXIT(事業売却等)の予定が無ければ、基本的には計画期間以降については、その事業が永続する前提で計算をします。
比較的若い企業で成長フェーズにあり、トップライン(売上)が伸びていて設備投資額水準も高いような企業に対して、成長率はインフレ率分しか見ません、というのは違和感がありますよね。かと言って、足元から計画期間にかけて毎期20%成長が見込まれているような企業であっても、その成長率で永続するような置き方は違和感がありますよね。
つまり、ビジネスが安定したところまで計画を引っ張ってあげないと、適切な継続価値(計画期間以降の価値)を算定できないということなのです。
まとめ
いかがでしたか?事業計画の年数について、理想と現実のギャップを埋めるのは難しいことはご理解いただけたかと思います。
そのギャップを埋めにいくべきなのか、というところについては、クライアントの意向であったり案件の関与の仕方によって変わってくると思います。
何れにしても、M&Aに関与するのであれば、事業計画に関する一般的な質問には答えられるようにしておきたいですね!
以上です!
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